楽曲解説"Benedicamus Domino" - 基礎篇
楽曲解説のコーナーは、VV5thの演奏曲目を知ってもらい、当日の演奏をより楽しんでもらうための企画です!
今回はポーランドの作曲家、K. ペンデレツキ作曲の"Benedicamus Domino"「主をほめたたえよ」について扱います。現代的な手法とキリスト教の伝統的な宗教曲、現代と古典の融合をはかったこの曲には、どんな仕組みがあるのか。そして、第5回演奏会のテーマ「戦争と平和」とどう関係するのか。楽曲の分析と悲痛なポーランドの歴史から迫ってみたいと思います。
"Benedicamus Domino"とは
作曲:Krzysztof Penderecki(クシシュトフ・ペンデレツキ)
詩:答唱、詩篇117番
編成:5声(Tenor 1,2,3/Bass 1,2)
1992年作曲。答唱、詩篇という古来より伝わる聖歌の詩や形式に、クラスターと呼ばれる現代的手法を融合させた曲です。
クラスターとは、簡単にいうと「ハモっていない和音」のことです。ピアノでいう鍵盤が隣り合った音を同時に鳴らした音です。(曲中におけるクラスターの役割などは発展篇で記します。)
ペンデレツキは1933年、ポーランドに生まれました。デビューは、前衛的な現代音楽の最盛期である1950年代末頃。戦後のポーランド復興期、そしてソ連崩壊による東ヨーロッパの「雪解け」の時代です。彼はデビュー当初からクラスターを特徴とした作品を書き、その技法の発展に貢献してきました。
しかし、1970年代からは古典的な手法にも回帰するようになってきました。同時代の現代音楽作曲家たちもまた、同じような傾向をたどっています。
"Benedicamus Domino"は、そんな背景の中書かれた曲です。ペンデレツキ最大の特徴といっても過言ではないクラスターを、古典的・伝統的な音楽に混ぜ込み、独特の効果を生み出しています。
ラテン語と日本語
「詩篇(Psalm)」とは、聖書(旧約聖書、新約聖書と二つあるうち、旧約のほう)に収められている文書のひとつです。ユダヤ教やキリスト教では、古来より神を賛美する言葉が歌われていました。その言葉が150篇の詩としてまとめられたものが「詩篇」です。
ヨーロッパ音楽の歴史のなかでは、グレゴリオ聖歌からはじまり、キリスト教の聖歌としてさまざまな作曲家が「詩篇」に曲をつけています。
そして「答唱(Antiphon)」とは、その詩篇がミサのなかで朗唱されるときに、詩篇の区切りの箇所で会衆が相槌を打つかのように唱える部分のことをいいます。答唱と詩篇、合わせて「答唱詩篇」と呼ぶこともあります。
本作品は、この「答唱詩篇」の形式に基づいて作曲がされています。
ラテン語
Antiphon:
Benedicamus Domino.
Psalm 117:
Laudate Dominum omnes gentes,
laudate eum omnes populi,
quoniam confirmata est super nos misericordia eius,
et veritas Domini manet in aeternum.
Antiphon:
Benedicamus Domino, alleluia.
日本語
答唱:
主をほめたたえよ。
詩篇117番:
すべての国よ、主を賛美せよ。
すべての民よ、主をほめたたえよ。
主の慈しみとまことはとこしえに
わたしたちを超えて力強い。
答唱:
主をほめたたえよ。アレルヤ。
「聖書 新共同訳」詩篇117編1,2節より
「すべての国よ」「すべての民よ」とは、キリスト教やユダヤ教を信仰するイスラエルの人々だけでなく、イスラエルに敵対する異国の民を含めた「すべて」を表しています。つまりこの詩篇は、世界中のすべての人々に「主(神)を賛美せよ」「ほめたたえよ」と謳っているのです。
150の詩篇の中で最も短い詩篇117番ですが、その内容は全世界、全人類に神への賛美を誘う壮大なものとなっています。