VV5th

委嘱初演作品について

ヴォーチェス・ヴェリタス第5回演奏会

委嘱初演作品

男声合唱とピアノのための

「組曲 罰と罪」

詩:宗左近、曲:松下耕

罰と罪、生と死、愛と憎。殺という外的行為が私という存在を軸に、張りつめた二項対立の世界をつくりだす。そこには確かに罰と罪が内在し、その世界こそが宙宇なのである。

第一楽章 I
「二つは一つ 罰と罪」
第二楽章 II
「あなたが死にます わたしが生きてゆきます」
第三楽章 III
「醜悪きわまりない罪が いつか 美しい花を咲かせるまで……」

1919年生まれの詩人、宗左近。東京大空襲で母を喪い、自らの断罪と贖罪、及びその(不)可能性について論じた詩集『炎える母』にて脚光を浴び、以降精力的に作品を発表し続ける。

校歌の作詞を通じて始まった三善晃との交友もあってか、同氏を始め多くの作曲家達の手によってその詩が合唱作品の題材とされており、今に至るまで人々に親しまれている。2006年没。

本作品『組曲 罰と罪』のテキストは、20世紀の終わり(21世紀の初め)に発表された詩集『宙宇』によっている。宙宇とは時間と空間の全てを指す言葉であり、宇宙という言葉がもたらす未来志向、世俗感からは一線を画す。

『組曲 罰と罪』では、宗左近特有の逆説によって死者と生者を取り巻く宙宇が提示される。それは謂わば一滴の雫の中に閉じ込められた、私たちにとっての「あの」時、「あの」空であり、詩人は「この」内側(外側)でニヒリズムを展開し続ける。

鏡の裏と表が互いを否定し合い、命題Pとその否定¬Pが生み出す矛盾は決して止揚されることなく、無の向こう側にある蜃気楼のような存在の方向へと飛び去っていく。50年を経て突き詰められた詩人の力学は、透明でかつ難渋である。

松下耕がどのように宗左近の世界を五線に(閉じ込めた)のか、是非〈あなた〉に聴いてもらいたい。

スケッチ
第5回演奏会